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東京地方裁判所 平成11年(行ウ)86号 判決 2000年12月21日

原告 株式会社日本デジタル研究所

右代表者代表取締役 前澤和夫

右訴訟代理人弁護士 小田切登

同 服部弘

同 菅原万里子

被告 東京都江東都税事務所長 宅間健

右指定代理人 松田英智

他1名

主文

一  被告が原告に対し平成八年九月一九日付けでした別紙物件目録記載の土地に係る平成八年度分の特別土地保有税の納税義務を免除しない旨の決定を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

原告は、被告に対し、原告が本社建築のために購入した別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について、地方税法六〇三条の二第一項及び東京都都税条例一五三条の二第一項に基づいて、平成八年度分の特別土地保有税の納税義務の免除の認定を申請したが、被告は、右免除を不許可とする決定をした。

本件は、原告が、被告に対し、被告の右決定を不服として、その取消しを求めている事案である。

一  前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨から認定できる事実である。)

1  原告

原告は、電子機器の設計及び製造並びに販売等を目的とする株式会社である。

2  原告による本件土地の取得

原告は、平成六年一二月二七日、フジクラ開発株式会社から、本件土地を代金六九億一五〇〇万円で買い受ける旨の契約を締結し、同七年三月三一日、右代金債務を完済するとともに所有権移転登記を経由した。

3  原告の納税義務免除申請

(一) 原告は、右2の本件土地の取得により、平成八年一月一日現在において、東京都江東区内に九九一七.三五平方メートルの土地を保有することになり、特別土地保有税の免税点を超えるに至った。

(二) 原告は、被告に対し、平成八年五月三一日、地方税法五八五条以下、同法七三七条二項、東京都都税条例四条の三に基づき、本件土地に係る特別土地保有税の申告書を提出するとともに、地方税法六〇三条の二第一項及び東京都都税条例一五三条の二第一項に基づき、右特別土地保有税の納税義務の免除の認定を申請した。本件土地について、右免除の対象土地であるかどうかを判定すべき日(以下「基準日」という。)は、平成八年一月一日である。

4  被告の決定

被告は、原告の右3(二)の申請について、東京都特別土地保有税審議会の答申を受け、本件土地については地方税法六〇三条の二第一項及び東京都都税条例一五三条の二第一項の要件に該当しないとして、平成八年九月一九日付けで、原告の本件土地に係る特別土地保有税の納税義務を免除しないとの決定(以下「本件処分」という。)をした。

5  原告の審査請求及び本訴提起

(一) 原告は、東京都知事に対し、平成八年一一月一四日、本件処分を不服として、本件処分の取消しを求める審査請求(東京都八総法不審第五二一号)をした。

(二) 東京都知事は、平成一一年一月一九日付けで、原告の右(一)の審査請求を棄却する旨の裁決をし、右裁決は、平成一一年一月二〇日、原告に送達された。

6  通達

(一) 地方税法六〇三条の二は特別土地保有税の納税義務の免除の要件として、当該土地が「事務所、店舗その他の建物又は構築物で、その構造、利用状況等が恒久的な利用に供される建物又は構築物に係る基準として政令で定める基準に適合するものの敷地の用に供する土地」であることを定めている。この要件の解釈について、昭和五三年四月一四日付け自治省税務局長通達「恒久的な建物、施設等の用に供する土地に係る特別土地保有税の納税義務の免除の取扱いについて」(自治固第三八号。以下「本件税務局長通達」という。)は、この要件の認定は、基準日現在の一時的な現況のみによるべきではなく、「当該基準日を中心とする一定の期間における土地の利用状況等を勘案して行うべきものである。」とした上、基準日現在において、既に恒久的な建物又は構築物の建設に着手されており、かつ、その後の工事の進捗状況からみて恒久的な建物、施設等の用に供されることが確実であると認められる土地は、免除対象土地として差し支えないとしている。

(二) これらを受けて、東京都においては、平成八年五月二二日付け主税局長通達「特別土地保有税課税事務の取扱いについて」(八主資固第一八号。以下「本件主税局長通達」という。)により、次のような運用方針を定めている。

(1) 「既に恒久的な建物又は構築物の建設に着手されている」とは、次の場合である。

(ア) 工程表、事業計画書等において予定されている工程のうち、建築確認通知を受けた後における全工程のおおむね一割程度まで工事が進捗している場合

(イ) (ア)にかかわらず、次の場合は、既に恒久的な建物又は構築物の建設に着手されているものとする。

a 木造及び軽量鉄骨造の建築物にあっては、基礎工事の段階に達している場合

b 鉄筋コンクリート造、鉄骨造、鉄骨・鉄筋コンクリート造の建築物にあっては、根切り工事の段階に達している場合

c 連続地中壁工事を伴う建築物にあっては、当該山留め壁の全部又は一部が完成している場合

ただし、右bの「根切り工事」とは建物の基礎底面まで、土を掘り下げる工事のことであり、「根切り工事の段階に達している」とは、根切り工事が完了していることを要せず、当該根切り工事が開始されていることが外形的に確認できる場合をいうものである。

(2) 「その後の工事の進捗状況からみて恒久的な建物、施設等の用に供されることが確実であると認められる」とは、工事が中断されることなく、かつ、工程表、事業計画書等において予定されている工程からみて大幅に遅れているものでない場合をいう。

7  原告本社社屋の建築工事

原告は、平成七年一二月一二日、本件土地上の本社社屋(以下「本件建物」という。)の建築について建築確認を取得し、本件建物の建築工事(以下「本件工事」という。)は平成一〇年九月一五日に完了した。原告の本社組織は、同年一一月一日には本件建物内に移転し、原告は、右同日付けで本店移転登記を行った。

二  争点

本件の争点は、本件土地が、地方税法六〇三条の二第一項一号に該当するかどうかであり、具体的には、基準日である平成八年一月一日の時点で、本件工事において、本件主税局長通達にいう「根切り工事」が開始されているなどして既に恒久的な建物の建設に着手されていたと認められるか否かである。

三  争点に対する当事者の主張

(原告の主張)

1 本件土地は運河を埋め立てた造成地であって軟弱地盤であり、本件建物の支持地盤は地表より五一メートルの深さにあるから、右支持地盤の深さに達する杭工事が必要である。また、本件建物は地下階を有する大規模な建築物である。そのため、本件工事においては、通常よりも根切り工事を慎重に行っている。

2 本件工事は、概略次のとおりの順で行われた。

(一) 現場設営工事

(二) 土工事

(1) 一次掘削工事

(2) 地中障害物撤去工事

(3) 地盤改良工事(表層部)

(4) 地盤改良工事(深層部)

(5) 山留め壁構築工事

(6) 杭工事

(7) 二次掘削工事

(8) 三次掘削工事

(根切り工事完了)

(三) コンクリート工事(基礎部のみ)

(四) 鉄骨工事

(五) コンクリート工事

(六) 仕上工事

(七) 外装工事

(八) 設備工事(右工事と並行して適時に行われる。)

3 本件工事においては、平成七年一二月二五日から一次掘削工事が開始された。

一次掘削工事は、地盤改良工事及び山留め壁構築工事がなくてもできる程度の深さまで掘削する工事であり、この工事により地盤が水平になり、この地盤が以後の工事の作業地盤となる。一次掘削工事を行うと、外形的にも掘削面が崩れない範囲で掘り下がっているのが確認できる。本件工事では、切梁を使用した四次掘削工事を行わずに根切り工事を完了することができるようにするため、さらに、土地を水平にし、その後の地盤改良・掘削を行う重機を入れるために、一次掘削工事が行われた。

本件工事において一次掘削工事を開始したところ、事前には予測できない地中障害物が発見され、この障害物に地盤改良用重機のドリルが当たって地盤改良ができない状況となったので、当初の計画になかった地中障害物撤去工事が発生し、工程の遅れを生じた。右撤去工事は、本件土地のうち本件建物が建築される部分について、一次掘削工事と一部並行して行われた。

4 本件工事においては、基準日である平成八年一月一日より前の同七年一二月二五日から行われた一次掘削工事によって、根切り工事が開始されたのであり、その後、右2(二)の経過を経て、平成八年六月ころに三次掘削工事が終了するに至るまでを一連の根切り工事というべきである。

5 被告は、一次掘削工事の後に障害物撤去工事や地盤改良工事を行っていることから、一次掘削工事は根切り工事の一部とはいえない旨主張するが、そもそも、本件税務局長通達では、既に恒久的な建物の建築に着手されており、かつ、その後の工事の進捗状況からみて恒久的な建物施設の用に供されることが確実であると認められる土地については免除対象として差し支えないとしている。本件工事の経過を考慮した上で一次掘削工事が根切り工事の一部といえないとすると、軟弱地盤における大規模建築においては、土地取得後一年以内に恒久的な建物の建築に着手することができないことになり、通達の解釈として不合理である。

6 右のとおり、本件工事においては、平成七年一二月二五日の一次掘削工事の開始をもって根切り工事の開始とみるべきであり、本件工事においては、基準日である同八年一月一日の時点では、既に根切り工事が開始されていたというべきである。

(被告の主張)

1 特別土地保有税の免除要件の一つである根切り工事に着手したといえるためには、基準日以前において、外形的に根切り工事と認められる工事が行われていることが前提となる。

根切り工事とは、「建物の基礎的底面まで土を掘り下げる工事」であり、掘削が行われても、その後地中障害物工事や地盤改良工事が行われる場合には、右掘削は地中障害物撤去工事や地盤改良工事のためのものと判断すべきである。その後最終的に「建物の基礎的底面まで土地を掘り下げる工事」が行われたとしても、当初の掘削は根切り工事の一環として行われたことになるのではなく、外形的にはあくまでも地中障害物撤去工事や地盤改良工事のための掘削と判断されるのである。

2 本件工事においては、基準日である平成八年一月一日の時点で、一次掘削工事が行われ、地中障害物撤去工事が行われていた状態であった。右地中障害物撤去工事の完了後、地盤改良工事(表層部)、同(深層部)、山留め壁構築工事及び杭工事を経て、二次掘削工事、三次掘削工事が行われたというのであるから、本件工事における一次掘削工事は、その後の地中障害物撤去工事、地盤改良工事のための掘削工事であったというべきである。

3 本件工事における地盤改良工事は、第一に深層部分の土を硬くして山留め壁の足元を固めるため、第二に一〇〇トンを超える深層改良工事用機械の転倒防止のために行われたものであり、右地盤改良工事と根切り工事とは性質も目的も異なる。そして、一次掘削工事は、地盤を水平にするとともに、掘削するときの山留めの負担を小さくするために行われたものである。したがって、一次掘削工事は、根切り工事の準備のために行われた地盤改良工事のための掘削であるとともに、根切り工事に必要な山留め壁構築工事の準備工事として行われた掘削であり、根切り工事自体には当たらない。

4 また、本件土地については、本件工事に先立って大規模な土壌改良工事が行われており、その全面に地中障害物が存在することは予想できたこと、及び、一次掘削工事の初日である平成七年一二月二五日には既に地中障害物の撤去を一部開始していることから、一次掘削工事は地中障害物の撤去を目的として行われたものであって、その手順として、ある程度地面を掘り下げると同時に地面を平らにし、重機で地中障害物の撤去工事を実施したとみることもできる。

5 以上によると、本件工事においては、基準日である平成八年一月一日の時点で行われていた一次掘削工事を根切り工事とみることはできず、右基準日時点で、いまだ根切り工事が開始されていたということはできない。

第三当裁判所の判断

一  特別土地保有税の納税義務の免除要件

1  地方税法五八五条以下に規定する特別土地保有税は、土地保有に伴う費用を増大させることにより、土地の投機的な取引を抑制するとともに、土地の供給を促進することを目的として創設されたものであるが、投機目的で保有されている土地か否かの判断が困難であることなどから、当初、当該土地の利用の有無を問わず一律に課税されることになっていた。しかし、その後既に社会通念上相当程度の水準の利用がされ、最終的な需要に供されていると認められるような土地についてまで特別土地保有税を課するのは適当でないという考慮から、このような場合には、いったん発生した納税義務を免除することとしたものであり(同法六〇三条の二)、免除対象土地の認定に関しては、前記第二(事案の概要)一(前提となる事実)6のとおり、同条が定めているところであり、本件に即していうと、本件土地が基準日である平成八年一月一日の現況において、恒久的な利用に供される建物の敷地の用に供されていることが必要となる。

このように地方税法の文言のみからすると、基準日において既に土地上に建物が存在していることが免除の要件であるかのように理解する余地がないでもないが、右に述べた納税義務免除制度の趣旨からすると、このように限定的に解するのは相当でなく、社会通念上、基準日に建物の敷地と同視し得る状況であれば、免除の要件を満たすものと解するのが相当である。このような観点からすると、本件税務局長通達が右要件の認定に当たり、「基準日において、既に工事に着手しており、かつ、その後の工事の進捗状況からみて恒久的な建物、施設の用に供されることが確実な土地は、免除対象土地として差し支えないものである」としているのは、社会通念上建物の敷地と同視し得る場合の一つを指摘するものとして、正しい法解釈を示しているものと考えられる。

2  本件主税局長通達は、本件税務局長通達の趣旨を具体化するために発出されたものであり、同通達にいう「建物の建設に着手されている」というためには、本件のような建物については根切り工事が開始されていることが外形的に確認できることを要するものとしている。

確かに、根切り工事が外形的にみて開始されていれば、建物の建設に着手されていると認めるべきであるから、その限度では、本件主税局長通達は本件税務局長通達に沿うものと考えられるが、これをあまり厳格に解釈することには疑問がある。すなわち、前記のように、社会通念上、基準日に建物の敷地と同視し得る状況をもって免除の要件と解することを前提とすると、本件主税局長通達も右解釈に沿って解釈運用を行うべきであり、例えば、厳密な意味で根切り工事の開始と認められるか否かに疑問があったとしても、これに必要不可欠な工事が開始され、それによって、外形的にみて建物の建設に着手されているものと社会通念上評価できる場合には、基準日において既に敷地と同視し得る状況が生じているものと認めるのが相当である。

3  一般に、建築工事における「根切り」とは、「建造物の基礎または地下室部分を築造するために、地盤面以下の土を掘削して所要の空間を造ること」をいう(建築大辞典第二版<普及版>一二七三頁)から、外形的に根切り工事が開始されているといえるためには、①地盤面以下が掘削されており、②右掘削によって所要の空間が造られつつあることが必要であり、かつ、右の外形が備わっていれば足りるというべきである。

根切り工事においては、地盤の強度、建物又は構築物の規模や構造によって、掘削を数次に分けて行うことがあり得るところ、根切り工事が一度の掘削により行われる場合と、数次に分けて行われる場合とで、根切り工事が開始されているというために必要な右の外形が異なるものではない。

また、根切り工事が、掘削を数次に分けて行うものである場合には、当初の掘削と最終的な掘削との間に、地盤改良工事、山留め工事等の別の工事が行われる場合が多いが、当初の掘削において、既に根切り工事としての外形が生じている以上、別の工事が介入していたとしても、「根切り工事が開始されていることが外形的に確認できる場合」に当たるというべきである。

二  本件工事について

1  本件土地の地盤

本件土地は、運河を埋め立てて造成した土地であり、地盤が非常に軟らかく、支持地盤は地表から五一メートルの深さに位置していた。

2  本件建物の概要

本件建物は、鉄骨・鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)の地下一階、地上八階の建物であり、一八、四一〇.六四平方メートルの延べ面積を有する。

3  本件工事の計画

本件工事は平成七年一二月七日ころ着工し、同九年八月一五日ころ竣工の予定で計画され、各工事の概略は次のとおりであった。なお、次の各工事は一部並行して行われることが予定されている。

(一) 現場設営工事(平成七年一二月七日ころから同八年一月一五日ころまで)

(二) 土工事(平成七年一二月二三日ころから同八年一〇月末ころまで)

(1) 一次掘削工事(平成七年一二月二三日ころから同月末ころまで)

(2) 地盤改良工事(平成七年一二月二三日ころから同八年二月一五日ころまで)

(3) 山留め壁構築工事(平成八年二月七日ころから同年三月一五日ころまで)

(4) 杭工事(平成八年三月七日ころから同年四月一五日ころまで)

(5) 二次掘削工事(平成八年四月一五日ころから同月末ころまで)

(6) 切梁・構台工事(平成八年五月一日ころから同月一五日ころまで)

(7) 三次掘削工事(平成八年五月一五日ころから同月末ころまで)

(8) 切梁払工事(平成八年八月一日ころから同月一五日ころまで)

(9) 構台払工事(平成八年一〇月二三日ころから同月末ころまで)

(三) コンクリート工事(基礎のみ)(平成八年六月一日ころから同年七月末ころまで)

(四) 鉄骨工事(平成八年八月一五日ころから同月末ころまで、及び同年一一月一日ころから同年一二月一五日ころまで)

(五) コンクリート工事(各階ごとに順次、平成八年九月一日ころから同九年三月末ころまで)

(六) 外装工事(平成九年二月一日ころから同年七月一五日ころまで)

(七) 仕上工事(平成九年三月一日ころから同年七月末ころまで)

(八) 設備工事(平成八年八月一日ころから同九年七月末の完成検査までの間に適宜行う。)

4  本件工事における土工事の計画

本件工事の土工事が、右3(二)(1)ないし(9)のとおり計画された理由は、次のとおりであると認められる。

(一) 右1、2によると、本件工事は、軟弱地盤の上に地階を有する大規模な建物を建築する工事であったといえる。そのため、本件工事においては、根切りを深く行わなければならず、床付け面が持ち上って山留め壁が崩壊するヒービング現象を防ぐため、大型重機を使用して地中深くまで地盤改良工事を行う必要があった。そこで、このような大型重機を使用することができるようにするために、深層部の地盤改良に先立って表層部の地盤改良を行うこととした。また、軟弱地盤において地下一階の深さまで掘削するため、山留め壁を構築する必要があったところ、右山留め壁を支える切梁が格子状に配設されることになるので、大型重機を使用する杭工事は、一部の掘削工事に先行して行うこととした。

(二) 本件工事における一次掘削工事は、右(一)の一連の土工事の当初段階の工事である。一次掘削工事によって、表層部地盤改良工事のための作業面が平坦になるとともに、建物が建築される部分の外側約一メートルの範囲内を掘削するため、山留め壁への負担を軽減し、山留め壁の長さを短くすることができる(基礎底面までの掘削距離を短くすることができる)ので、山留め壁を支持する切梁の段数を減少させ、掘削を三次掘削工事までで終わらせる計画を立てることができた。

5  基準日に至るまでの本件工事の状況

(一) 本件工事に先立って、平成七年五月ころから同年八月ころにかけて、鹿島建設株式会社によって、本件土地の一部について土壌改良工事が行われた。さらに、同年九月末ころまでの間に、株式会社東京ソイルリサーチによってボーリング調査による地盤調査が行われた。

(二) 本件工事を請け負った株式会社大林組(以下「大林組」という。)は、平成七年一二月一一日には、建築確認通知を受領するとともに、建設工事計画書を労働基準監督署に提出し、翌一二日に本件工事に着工した。また、右(一)の土壌改良工事の結果から、本件土地のうち本件工事の敷地内に排水溝が埋まっていることが分かっており、大林組も試掘によってこれを確認していたが、その他の地中障害物の有無等については、本件工事の着工時点では判明していなかった。

(三) 大林組は、平成七年一二月二五日、一次掘削工事を開始した。一次掘削工事は、地表から約五〇センチメートルの深さまで掘削を行う工事であり、掘削土量は約一〇〇〇立方メートルであった。右工事開始直後に、右(二)のとおり事前に埋設を確認していた排水溝とは別に、運河護岸のアンカーや巨大なコンクリート塊が地中に埋まっていることが発見されたため、急遽一次掘削工事と並行して地中障害物撤去工事が行われることになった。

(四) 一次掘削工事は平成七年一二月二八日に終了したが、この時点で地中障害物撤去工事は継続して行われており、地中障害物を掘り起こして破壊するとともに、地中障害物が埋まっていた穴を埋め戻すという作業が繰り返されていた。また、当初から一次掘削工事と同時に行われることになっていた地盤改良工事も一部行われていた。そして、右の状況は、基準日である平成八年一月一日の時点においても同様であり、本件土地のうち、本件建物が建築される部分については、その外側約一メートルよりも内側の範囲で全体に約五〇センチメートルの深さで掘削が行われ、その一部において、地中障害物の撤去及び地盤改良工事が行われていた。

6  基準日以後の本件工事の進捗状況

本件工事のうち土工事については、右5のとおり、事前に予測していなかった地中障害物撤去工事が行われたことから、工事計画から概ね一か月以内の遅れで進行したが、平成八年六月中には三次掘削工事が終わり、掘削工事が完了している。

三  基準日における状況

1  基準日現在の外形

右二5(四)の事実及び《証拠省略》によると、本件土地については、基準日である平成八年一月一日の時点で、一次掘削工事が完了した後、地中障害物撤去工事及び地盤改良工事が行われていたところ、地中障害物撤去工事に伴う撤去済み障害物、埋め戻し用の土砂が存在する部分を除き、本件建物の建築される範囲(外側約一メートル以内)の地盤面以下の掘削が行われた状態であり、右掘削によって地盤面から約五〇センチメートルの深さまで空間が造られていたということができる。

2  基準日後の工事の進捗状況

右二6のとおり、本件工事の土工事は、工事計画より若干遅れながらも、中断することなく行われ、平成八年六月ころには、掘削工事が完了しており、前記第二(事案の概要)一(前提となる事実)7及び前記二2によると、現に地下一階、地上八階、鉄骨・鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)である原告の本社社屋が完成している。

3  以上の事実によると、一次掘削工事自体が厳密な意味で根切り工事に含まれるものか否かについては疑問が生じないでもないが、一次掘削工事はもとより、その後行われた地中障害物撤去工事及び地盤改良工事は、いずれも根切り工事を行うのに必要不可欠の工事であり、少なくとも根切り工事と密接不可分の関係にあるというべきであるから、基準日以前において、これらの工事が外形的に明らかな形で行われている以上、外形的にみて建物の建設に着手されているものと社会通念上評価することができるし、基準日以後の工事の進捗状況からみて、恒久的な建物の用に供されることが確実であると認められる土地であったというべきである。

四  本件土地の(特別土地保有税の納税義務)免除対象土地該当性

右三のとおり、本件土地は、基準日現在において、既に恒久的な建物の建設に着手されており、かつ、その後の工事の進捗状況からみて恒久的な建物の用に供されることが確実であると認められる土地であったというべきであり、社会通念上既に恒久的な建物の敷地と同視し得る状況にあったと認められるから、本件土地は、地方税法六〇三条の二第一項一号の特別土地保有税の納税義務免除対象土地に該当する。

五  結論

弁論の全趣旨によると、本件処分は、専ら本件土地が特別土地保有税の納税義務免除対象土地に該当しないことを理由として行われたと認められるところ、右四のとおり、本件土地は右免除対象土地に該当するから、本件処分は本件土地についての右免除対象土地該当性の判断を誤ったものであり、違法というべきである。

したがって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤山雅行 裁判官 谷口豊 杜下弘記)

<以下省略>

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